防  風  林

(文・高 橋 幸 男)

第1回 向き合う
 「霧につつまれたハリネズミ」「話の話」などのアニメーションで作品で知られるロシアのユーリ・ノルシュテイン監督は映像の魔術師とよばれている。
 たびたび来日しアニメーションフェスティバルの審査員なども務める親日派だ。その審査会で最近の日本の若手作家は非常に臆病になり、内にこもって外に出ようとしない傾向があると指摘していた。
 対人関係を避け、主観的になり自己中心的世界へ逃避してしまう結果、芸術に最も大切な要素である客観的視点に立った普遍性の追求がなおざりにされているということだろう。
 30数年前、空手ブームをつくりだした極真空手にも同じことが言える。空手人口が増加するとともに、フルコンタクトの試合が数多く行われるようになった一方で、勝負にこだわるあまり勝つことがすべてといった行き過ぎた傾向が出てきた。武道としての空手は肉体と心を高めることを目的としているが、対人関係が希薄になり、人を知るという大切なことを遠くに押しやりがちだ。
 空手の孤独な修行では自己と向き合うが、稽古では生身の人間同士がぶつかる。自己を知るには他者を通じ、他者を知るには自己を通じなければならない。勝ち負けの後ろに人生のドラマや心の世界が広がっている。
 芸術や武道では、自と他の認識は別々なものではなく表裏一体だ。豊かな人生を歩むためには自己と向き合い、他者と向き合うことを意識し、学んでいくことが大切だと思う。
(空手家、画家・鹿追)
2011年5月28日 北海道新聞夕刊掲載


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